ブルーアーカイブにおける青春の舞台・キヴォトス!その世界観設定は意外と複雑で、読み解くとすっっっごく面白いのです!!
ということで、この記事では「神秘とか恐怖ってなに?」「名もなき神とか忘れられた神々ってなに?」などなど細かな設定を解説しつつ、キヴォトスの特異な「テクスチャー」構造を解き明かしていきます!
これさえ読めばブルアカの世界観だいたいわかる!……かもしれません?
基本原理:「神秘」と「恐怖」
「崇高」の裏表

ブルアカの世界観を語るにあたって、最も基本的で最も重要な設定を語っているのが、総力戦ヒエロニムスにおけるマエストロの前説です。
いわゆる「崇高」というものは、二つの側面を持っている……ひとつは、到底たどり着くことの叶わない「神秘」。そしてもうひとつは、不可逆の「恐怖」。
例えるならばそう、それはまるでコインの両面のように、「神秘」と「恐怖」とは互いに切り離すことができないものなのだ。
しかし宙に投げられたコインが最終的にはどちらか一方の面を見せるのと同じように、「崇高」もまたそのような形で顕現する。
「神秘」、そして「恐怖」。これらの本質は同じだが、私たちは「崇高」の形として、その二つの内の一面しか観測することができない。
マエストロ-総力戦ストーリー「ヒエロニムス」
つまり、「崇高」というエネルギーのコインの表裏が、「神秘」と「恐怖」なのです。
わかりやすく言い換えると……「崇高」は神格に近いかも。とある神格があるとして、それが比較的穏やかな「神秘」の側面で顕現するか、荒々しい「恐怖」の側面で顕現するかは分からない。
これは神話でも、神様が色んな側面を持つのに似ています。それらは人に恵みをもたらす「神秘」的存在として敬われる一方で、天災を引き起こす「恐怖」の対象としても捉えられたりする……。
おそらくここには、ドイツの神学者ルドルフ・オットーやユングが提唱した「ヌミノーゼ(ヌミノース)」の概念が反映されています。
彼らは、「神聖なもの」に触れたとき、人間の心に沸き上がるものの中に「畏怖すべき神秘(Mysterium Tremendum)」と「魅力的な神秘(Mysterium Fascinans)」があるとしました。
聖なるものに直面したとき、人はそのエネルギーに圧倒され、戦慄します。本能的に恐怖し、震えおののきます。
でも一方で、そこから目が離せない。その圧倒的な存在に触れたい、と強烈な憧憬や陶酔に駆られます。これが色んな宗教的感情の源泉になってるんじゃないか、とオットーらは考えたわけですね。
つまり、ここで言う「魅力的な神秘」こそがブルアカにおける神秘で、「畏怖すべき神秘」こそが恐怖、と捉えることもできます。
恐怖と複製(ミメシス)

さて、この設定を踏まえて、総力戦シロ&クロの前説(※マエストロ初登場!)を見ます!
古来より、全ての感情にはその原初たる 「根源の感情」が存在し、ありとあらゆる感情はそれを複製する形で現れているのだという。
幸せ、歓喜、熱望、怒り……いずれも、根源の感情のレプリカだということだ。
(中略)
この閉鎖された遊園地には、かつての多くの人々の幸せが、歓喜が残滓として残っている。
そしてそれらの複製が今、ここに顕現した。
捨てられたドールに、ようやく意味が付与されたのだ。 私はこれらをミメシスと呼ぼう。神秘の別側面として恐怖(テラー)の属性を持った、歓喜のレプリカだ。
さあ、先生。どうか、喝采の準備を。
マエストロ-総力戦ストーリー「シロ&クロ」
廃遊園地スランピアには色んな感情が残っている。そして打ち捨てられたドールを依代に、「歓喜」の感情がある種の受肉……複製(ミメシス)された。
これは後に語るペロロジラや、オラトリオ編に登場した黙示録の天使で補強される部分でもあるけれど……キヴォトスには感情や物語の堆積が力を持つというメカニズムが働いています。
そしてミメシスは、かつて存在した感情の集積・痕跡みたいなもので、「恐怖」の側面で顕現する崇高です。ちょっと特殊な幽霊みたいな感じ。
自然発生したりもするし、マエストロが残留思念に意味・解釈を与えることで、意図的に発生させたりもできるみたいです。
人工の天使

シロ&クロを経由すると、ヒエロニムスの前説後半が分かりやすくなります!
……と、まあ語ってはみたものの……お恥ずかしい話だが実のところ、私たちはそれを真に理解できていたわけではなかった。つまり私たち(ゲマトリア)は、失敗したのだ。
私たちは「神秘」を手にすることはできず、それどころか真っ当に手が届くことすらなかっ た。
私たちが近づくことができたのは「恐怖」だけであり、その上それは複製(ミメシス)されたものに過ぎなかったのだ。
まあシミュラクラの概念を支持する私としては、「原本」や「複製」といった区分は無意味だと考えているものの……。
マエストロ-総力戦ストーリー「ヒエロニムス」
黒服は「キヴォトス最高の神秘」たるホシノと契約し、それを所有しようとしたが、先生の介入で失敗した。

契約、戒律、約束……こういったものはそれら昔話と同様に、キヴォトスにおいても重要な概念だ。
例えばトリニティの経典には太古の始まりの 「神性」、 そしてそれとの間に締結された10の戒命が描かれている。
その他にも、私たちは原初において「約束」を破ったから楽園から追放されたのだ......そのようなことも書き伝えられている。
思い出してほしい。「ゲマトリア」はアビドスの生徒に何かを強いることはできず、ただ「契約」を要求していた。その契約が成立しないとなれば、 ゲマトリアは退くしかなかっただろう。
セイア-エデン条約編3章 10話「甘い嘘」
ゲマトリアが(この時点で)観測・接触できたのは、シロ&クロという「恐怖」のみ。
まあマエストロとしては、それがミメシスでも崇高ならいいんじゃないの?という認識なんだけど、黒服たちがそれで納得しないのも知ってるから、新しいアプローチを考えることにした。
つまり、ミメシスをこねこねして、人工の天使を作り出すのです!
そこで私たちは、トリニティの地下に封印されし太古の教義に目を向けた。
(中略)
つまり……私はそなたに、この小さな成功を紹介したかったのだ。
なにせその教義はついに受肉し、その意志が天と同様に、地においても結実することが証明されようとしているのだから。
私たち(ゲマトリア)が作り出した、人工の天使にして、神性の怪物。
紹介しよう。こちらが「聖徒の交わり(Communio Sanctorum)」を率いる、受肉せし教義……。
その太古の教義に関わる名を借りて、私たちは「ヒエロニムス」と呼んでいる。
マエストロ-総力戦ストーリー「ヒエロニムス」
トリニティの第一回公会議が行われた「通功の古聖堂」。その地下には、太古の教義(ドグマ)とユスティナ聖徒会の「威厳」が残されていた。

マエストロはベアトリーチェとの取引により、アツコ(ロイヤルブラッド)を媒介することで聖徒会のミメシスを生成した。
あの守護者たちの 「威厳」 を複製できるというその一点には興味を惹かれた。 それに免じて、今回はそなたらを助けよう。
戒律を守護せし者の血統……そのロイヤルブラッドの「戒命」が動作する様を見届けられたのは、幸甚であった。おかげで私の実験は、さらに「崇高」に近づくことができるだろう。
マエストロ-エデン条約編3章 7話「火と灰に染まる日(2)」
そしてミメシスを利用し、概念やルールでしかなかった「教義」に肉体を与え、物理的な存在へと変換したのがヒエロニムスです。聖徒の交わり(Communio Sanctorum)、すなわち信徒たちの霊的な結合……は、ミメシスの重ね合わせ、という意味で捉えるのがよさそう。
ちなみにこの名は、聖書をラテン語(ウルガタ)に翻訳した聖人ヒエロニムスに由来しています。
キヴォトスには、やっぱり漠然とした概念やエネルギーのようなものを、現実に受肉させる方法・環境が存在しているのです。
ライブラリー・オブ・ロア

次に見るのは、総力戦ペロロジラの前説。
言うなればこれは、現代の都市伝説、怪談……あるいは俗に「クリーピーパスタ」とも呼ばれる、本来無意味なお話が自ら「崇高」の境地へと至った非常に稀なケースなのです。
つまり「神秘」も「恐怖」も無いままに胎動した、新たな「崇高」。無限に繰り返される中で偶然に意味を孕んで誕生した、稀有なテクストを持ちうる記号……。これは非常に興味深い、ぜひとも解釈されるべき 「記号」であるわけでございます。
そして私はある偉大な芸術家の作品の名を少々お借りして、このように名づけました。「The Library of Lore(止め処無い奇談の図書館)」、と。
ぬいぐるみの魂が唐突に暴れるという怪談。この後もきっと、様々なオマージュのようなものが続いていくことでしょう。
これはあくまで、図書館のデータベースの一部。先生にとってもきっと、無視できるものではないはずです。
ゴルコンダ-総力戦ストーリー「ペロロジラ」
アズサちゃん、それは本当ですか?ペロロジラのぬいぐるみって……輸送中に船が沈没してしまって、市場に流通される事がなかったという、伝説の……!?
その事件で、ぬいぐるみの下請け業者は破産してしまい……再販されることはなかったという、オーパーツみたいなものなのに!?それが、存在してるってことですか!?
ヒフミ-あまねく奇跡の始発点編1章 4話「日常の亀裂(2)」
要は、「積み重なった噂は現実になる」ということ!
クリーピーパスタ(ネット発の都市伝説)やいわゆるネットミームのように、もとは無意味な冗談だったものが、大衆によって無限に語られ拡散されるうちに、ある種の実在性を獲得してしまったもの……それがペロロジラで、ライブラリー・オブ・ロアなのです。
ここで重要なのが、ライブラリー・オブ・ロアは神秘でも恐怖でもない、第三の形での「崇高」であるということ。
神話が繰り返し語られることで、その「神」の実在性は形作られる、といったようなことだと思います。
神聖の再臨・パルーシア
さて、これらを前提知識として持っておくと、最終編でのゲマトリア会議も理解できます!
マエストロ:複製で完成された聖徒の交わりは1期。アンブロジウスは失敗、グレゴリオはまだ準備が終わっていない――と。
ゴルコンダ:怪談の無限図書館はまだ始まったばかり......そしてアミューズパークのマジシャンも……まだ時間が必要そうですね。
黒服:デカグラマトンの預言者は、理解者 「ビナー」 に審判者「ケセド」……そして栄光 「ホド」 の力を確保しました。デカグラマトンは預言者を残し、死を選んだ。
黒服:現状はこれが最善というところでしょうか。これが神聖の再臨「パルーシア」を再現するものなのか確認したかったのですが......
黒服:残念ながら、時間がありませんね。忍び寄ってくる 「色彩」、復活目前の「無名の司祭」……どちらにせよ、備えておかねばなりません。
-あまねく奇跡の始発点編1章 14話「シャーレ奪還作戦(2)」
「複製で完成された聖徒の交わり」はヒエロニムスのこと。アンブロジウスはエデン条約編で「戦術兵器」として作られたけど、完成には至らなかったもの。
ヒヨリ:か、確認しました……あれが、例の……。
サオリ:「戦術兵器」か……ただの化け物だな。
ミサキ:「太古の教義」をもとに作られた、失敗作……?あの人形、失敗したってこと?
-エデン条約編3章 14話「暗闇の中で」
エデン条約の時に「戦術兵器」として使ってた 「アンブロジウス」の悲鳴だよ。……たしかにあの時、私たちが扱った複製で合ってるみたいだね。
ミサキ-エデン条約編4章 14話「邂逅」
ゴルコンダが言っている「怪談の無限図書館」はペロロジラ、「アミューズパークのマジシャン」はゴズを指している。

そして黒服はデカグラマトンの預言者について触れつつ、「神聖の再臨・パルーシア」とかいう謎の単語を出してきてます!
「パルーシア(παρουσία)」は、キリスト教神学においては特に「キリストの再臨」を意味している。すなわち一度天に昇ったイエス・キリストが、世界の終わりに再び地上に降り立ち、最後の審判を行い、神の国を完成させるという概念です。
おそらくここで黒服は、デカグラマトンが「死んで、王国(マルクト)と共に蘇る」というプロセスを実行しようとしていること自体に、パルーシア的な象徴性を見出しているものと思われます。
そしてここで、しれっと「無名の司祭」が復活直前であることが語られています。
キヴォトスの基本設定をおさらいできたところで……じゃあ無名の司祭って一体何なの?っていうところをここから掘り下げていきます!
名もなき神々の時代
キヴォトス以前の世界
無名の司祭と「名もなき神々」については、最終編1章で詳細な説明がされています。
黒服:それでは、会議を始めましょうか。少々前の事ですが、「無名の司祭」の遺産が観測されました。
ゴルコンダ:不勉強で申し訳ないのですが、「無名の司祭」とは具体的に何を意味するのでしょうか?
ゴルコンダ:ベアトリーチェが保有する、ロイヤルブラッドを保護する技術。そして、古聖堂を破壊した巡航ミサイル―これらが無名の司祭による技術だとわたくしは解釈しております。既存技術を凌駕する超科学―その類のものという認識で合っていますか?
マエストロ:そうだな……彼らは端的に言うなら、キヴォトス以前に存在していたこの世界の主のことだ。
黒服:「名もなき神」とそれを崇拝する「無名の司祭」 。彼らはキヴォトスの神秘の下に堆積し、痕跡だけが残るはずだった存在……。
黒服:「名もなき神」―それは大地、海原、天災といった……所謂、太古の昔より存在する「神秘」や「恐怖」―とでも申しましょうか。彼らは自然を模った形で顕現するとされております。
黒服:そして、それらを崇拝する「無名の司祭」。彼らが何のために巡航ミサイルなどのオーパーツを生み出したのかは定かではありませんが―淘汰されし旧き人は、現代のキヴォトスに対して友好的ではなかったのでしょう。
黒服:彼らは何処かへと姿を消しましたが、その技術はまだこの地に残されておりまして。そう……そして私は―彼らの遺産に大変興味があるのです。なにせ、高い値段で取引されているのでね。クックックッ……。
-あまねく奇跡の始発点編1章 2話「破局」
ここで明かされているのは、「キヴォトス以前の世界」が存在したということです。
そこには、大地、海原、天災といった自然現象そのものとしての原始的な神秘と恐怖……名もなき神々がいました。
そして、それを崇拝する「無名の司祭」たちが超科学文明を築き、世界の覇権を握っていたのです。
しかし時代の変化によって彼らは淘汰され、歴史の表舞台から姿を消した。やがて今の「学園都市キヴォトス」が構築され、旧世界の遺産は「オーパーツ」として扱われるようになったのでした。
ちなみに「古聖堂を破壊した巡航ミサイル」とはエデン条約編でアリウスが使用したもの。

(さっきの、何かが高速で飛んでくるような音……それにこの被害状況……)
(巡航ミサイル……それも、対空防御システムが迎撃できないほどの速さで?)
(……ラムジェットエンジン?キヴォトスで、そこまでの技術を持っているところは……)
ヒナ-エデン条約編3章 7話「火と灰に染まる日(1)」

また「ベアトリーチェが保有する、ロイヤルブラッドを保護する技術」とはアツコのマスクのことです。
このマスクはドローンと連動していて、アツコを自動防御するようになっています。なので、ペロロ博士ぬいぐるみに仕掛けられていた「ヘイローを破壊する爆弾」からサオリを庇った時も、アツコはなんとか一命を取り留めることができました。
ベアトリーチェ:生贄の体に予め植えておいた防御システムのおかげで助かりました。感謝します、黒服。
黒服:……クックックッ。 無名の司祭たちの技術が役に立ってよかったです。
-エデン条約編4章 5話「不可解な探求者」
マダムがどうして私にマスクを付けさせたがってたのか、分からなかったんだけど……。
アズサの爆弾に巻き込まれた時、私の体を保護してくれた装置があって......多分、それを作動させるのに必要だったんだと思う。
アツコ-エデン条約編4章 25話「大切な人」
「無名の司祭」の目的
そしてシロコ*テラーが生きていた別次元においては、既に無名の司祭が復活して動き出していました。彼らはこの世界の構造にすごく詳しいようで、ここですごく重要な情報を開示しています。
無名の司祭A:「色彩」が、ついに死の神(アヌビス)と接触した―
無名の司祭B:「色彩」 を導いたことが、「苦しみ」なのか「死」をもたらすのかは分からぬ。だが、これで最後。
無名の司祭C:「忘れられた神々」 をこの世界から追放できるようになった……この世界に、終焉を呼び寄せられるのだ。
無名の司祭D:ようやく、彼らは我々と同じ運命を辿る。
無名の司祭E:名が無いために呼ばれず、 呼ぶことができないが故に存在しない「名もなき神」のように、お前たちも同じ結末へと向かうだろう。
無名の司祭F:数多の危険があったが、色彩を引き寄せられたのは僥倖だった。
無名の司祭A:司祭は神を崇めるがゆえ、「崇高」を所有できる。
無名の司祭B:ここに新たな「崇高」を迎え手に入れるのだ。
無名の司祭C:すべての命を「別の場所(あのよ)」に導く死の神―
無名の司祭A:「アヌビス」を。
無名の司祭D:これからお前は 「色彩」によって顕現した己の 「恐怖」 で、この世界を塗りつぶしていくだろう。
無名の司祭E:それまで死も安息も、許されぬ。
無名の司祭F:「色彩の嚮導者」と成り、 あらゆる存在を無に帰すまで。
無名の司祭G:すべての時空の 「忘れられた神々」が消滅するまで―
-あまねく奇跡の始発点編4章 連合作戦「PHT決戦」
ここでは対策委員会を失い、先生という寄る辺を失って絶望したシロコに、無名の司祭たちが「色彩」を接触させています。
彼らの目的は「すべての時空の忘れられた神々(=生徒)を消滅させる」こと。語り口的に、報復としてのニュアンスが強そう。

色彩は「解釈されず、理解されず、疎通されず、ただ到来するだけの不吉な光」「意志も欲望も目的もない不可解な観念」と説明されます。
この光に晒された者の肉体は捻じれ、精神も狂気に侵されるのだとか。事実、ベアトリーチェはこの力で肉体を進化させようとしたけど、そのせいで狂気に陥り、ゲマトリアを追放されることとなりました。
キヴォトスの民は頑丈なので、色彩に晒されただけで「死ぬ」ことはありません。でも本質を歪められて、「神秘」を「恐怖」に反転させられてしまうのです。
砂狼シロコという生徒は、「神秘」の側面で現れた崇高でした。けれど色彩の光でその性質は反転し、より荒々しい神としての―「恐怖」の側面が引き出されてしまいます。
アヌビスという崇高にとって、それは生者を常世に導く「死の神」としての側面でした。
神を所有する司祭

ちなみにここで、無名の司祭が気になることを言っています!
司祭は神を崇めるがゆえ、「崇高」を所有できる。
なんだか直感には反する表現です。神を崇める者は神に「従属」するもので、「所有」するものではないように思えるからです。
これを読み解くために、ドイツの哲学者ヘーゲルさんの「主と奴」の考え方を少しだけ持ってきます!
一見すると、奴隷よりその主人の方が偉いし、上位にあるように思えます。でも本当は、奴隷によって「主人」と認られて初めて、彼は「主人」たりえるのです。
たぶん、無名の司祭と神の関係はこれを反映しています。
「神」が存在するためには、「司祭(観測者、定義者)」が必要不可欠である。
よって神の存在証明の鍵(=主導権)を握っているのは、神自身ではなく、それを崇める司祭の方である。
神は、誰にも認識されていない状態では自然現象に過ぎない。それに名前をつけ、神殿を建て、体系立てて崇めることによって初めて、神は定義づけられる……そういうことを言っているのではないのでしょうか。
もしかすると司祭たちにとっての「崇拝」とは、ひれ伏すことではなく「神というシステムを管理する」ための方策だったのかもしれません……。
なんとなく、テクノロジーをやたら発展させている司祭たちなので、「神様」をこういうロジカルな形で捉えていてもおかしくはないと思いました。
ともかく、この論理によってシロコ*テラーを傀儡にした司祭たちは、「死の神」としての力でキヴォトスを滅亡に導いたのでした。
生徒の正体=去勢された神

無名の司祭A:驕るな―!!無名の司祭B:アレは、お前の知る生徒(こども)ではない!!
無名の司祭C:アレは神が顕現したもの―「神秘」 であり、「恐怖」 であり、「崇高」……「光」 であり、「絶対者」!!
無名の司祭A:アレは 「観念」で……お前が理解できない、畏怖すべき対象なのだ!!
無名の司祭A:想像界で表象され、現実界へと至る__象徴界の記号であり隠喩(メタファー)なのだ!!!
無名の司祭A:お前はこの選択を……未来永劫、後悔するだろうー!!
-あまねく奇跡の始発点編4章 連合作戦「PHT決戦」
ここのセリフは、フランスの精神分析家ジャック・ラカンが提唱した三界の概念に基づいています。
「想像界」とはイメージの世界で、「現実界」は意味を持たない、剥き出しの現実・混沌。「象徴界」は言葉、法、ルールによって秩序立てられた意味の世界を指します。
つまり私たちは「想像界」で『私』と『他者』というイメージを持ち、「象徴界」で言葉を使って社会と関わり、「現実界」というカオスに蓋をして生きているわけです。
ここで面白いのが、「去勢」という概念。言葉を使うということは、私たちは現実界の「言葉にならない叫び、原初の気持ち」を既存の枠組みに当てはめて、そこから万能感を剥奪することになるのです。
たぶん無名の司祭が言いたいのは……
アヌビスっていう神格は人々のイメージによって形作られ、「死」のエネルギーそのものとして現実界に表出した。
で、今の意味づけられた象徴界(キヴォトス)では少女の形として存在するけど……結局のところ、世界に終焉をもたらすべく配置された「死」のシンボルに過ぎない。
そういうただの記号とか概念に、人間みたいな責任を感じたりするとか……狂ってるのか!?
みたいなことだと思います。たぶん。

恐怖への反転っていうのは、「象徴界」のフィルターが剥ぎ取られて、“去勢”される前の「現実界」の暴力性とかエネルギー性が表面化することなのかな、と思います。
ということで、キヴォトス史のおおまかな流れが見えてきました!
かつては「名もなき神々」とそれを崇拝する無名の司祭たちが君臨していたが、何らかの転換期を経て「忘れられた神々」が跋扈する学園都市キヴォトスへと変貌したのです。
これについては、「テクスチャーの張り替え(リ・テクスチャー)」という言葉が適していると思います。
このあたりに深く切り込んだのが、対策委員会編3章における地下生活者です!
「神々の星座」の時代
テクスチャーの張り替え

なるほど……「RULE BOOK(コデックス)」 が更新されたのですね?
新しい世界……ええ、感じます。この世界の異物感を……
書が変更されルールが変わったのなら、これは……また新しいキャンペーンが始まったということで……。ヒヒッ、ヒ!ならば話は変わります。こ、今度の書は……!小生に、どんな気付きを与えてくれるのでしょう。
新しい「RULE BOOK(コデックス)」は―学園都市………それに、先生?ン、ンン……?こ、これは!思ったよりも難易度がた、高いじゃありませんか……!
(中略)
ヒヒッ、ヒ……い、いいだろう。まずはこの世界を、知ることから始めなくては……新しいコデックス、新しいキャンペーン……アア、そう……。ならば小生の求道はそこから始めよう。
アビドス。太古の「神秘」らが誕生したあの帝国……果たして、今回のコデックスではどんな形になっているものか……。
地下生活者-対策委員会編3章 1話「プロローグ」
地下生活者は、世界をTRPGの用語で認識している。ここでキャンペーンとは「一つの時代や物語の区切り」のようなもので、彼にとって世界の変容は「ゲームの版上げ(ルールの改訂)」に過ぎないのです。
どうやら地下生活者は、学園都市になる前の世界を知っている様子……。というよりも、何度も「ルールブックの変更」=「テクスチャーの張り替え」を見てきたかのような言動をしています。
世界創造の戦い

そして「セトの憤怒」について、地下生活者は以下のように語っています。
今度はあなたが!そうか、ホルスの神格に応じて!
原初の神格ホルスの宿敵であり、この世界の創造を巡り対立していた存在……。「セトの憤怒」よ!
ルールを変える前のテクスチャーだが、良いだろう。「セトの憤怒」と「暁のホルス」の激突。これこそ、まさに世界創造の戦い!
早く、早く小生に見せてくれたまえ!語り継がれし神秘と恐怖の神話を!
地下生活者-対策委員会編3章 33話「顕現」
神々の星座(Celestial pantheon)……?それは小生が属していた世界……あの書に記録されている……超越的な存在たちです……
今ここの概念とは異質的な……ヒヒヒ……はい。超越的な神格の顕現そのもの。
この存在たちは「神秘」だとか「恐怖」などで表現することは不可能です……。
……そうです。強いて言うなら「崇高」以前、いえ、その向こうの観念でしょうか……それを何と呼べばいいのかは分かりませんが……。
その星座の中の一つの「セトの憤怒」……はい。そうです。
よくご存じとは思いますが……これは……砂漠と嵐と雷そのものでもあり、その力が意味する憤怒でもあります……。
答えに……なりましたでしょうか……?
地下生活者-制約解除決戦ストーリー「セトの憤怒」
制約解除決戦での前説を含めると、「セトの憤怒」はこの世界に「崇高」「神秘」「恐怖」という概念が持ち込まれる以前の、原初の神格であることが分かります。
そしてセトの憤怒は、この世界の創造を巡り原初の神格ホルスと戦っていたと言います。おそらくこの時代の荒々しく、より根源的な神格たちを神々の星座(Celestial pantheon)と呼ぶのだと思います。
「名もなき神々」は太古の昔より存在する「神秘」や「恐怖」とされ、無名の司祭もそういった概念を用いているので、神々の星座の時代はより古い、まさに世界創造の時代にまで遡るものと考えられます。
ここでざっくり時代区分を整理します!
①「神々の星座」の時代:超越的な神格たちによって世界が創られる。ホルスとセトの憤怒の対立。
《リテクスチャー》
②「名もなき神々」の時代:「崇高」は、自然現象の中に見出される「神秘」や「恐怖」=名もなき神々として現れる。無名の司祭はそれを崇め、高度な科学文明を構築した。
《リテクスチャー》
③「忘れられた神々」の時代:現在。「崇高」は、学園都市キヴォトスにおいて「生徒」という形で現れる。
実際のところ、①から②までの長い歴史の中で何度かリテクスチャーが起きている可能性が高いです。その過程で、もしかすると原初の神格は「忘れられた神」となっていったのかもしれません。
ここで、名もなき神々の王女が作られた理由について考えてみましょう!
名もなき神々の王女

貴方たちがアリスと名付けたソレは―未知から侵略してくる「不可解な軍隊(Divi:Sion)」の指揮官であり、「名もなき神」を信仰する無名の司祭が崇拝した「オーパーツ」であり―古の民が残した遺産―
その名も……名もなき神々の王女AL-1S。
リオ-時計じかけの花のパヴァーヌ編2章 9話「残酷な真実(1)」
アリスの正体は、無名の司祭によって作られた終末兵器でした。
廃墟の軍需工場から生産される機械兵「Divi:Sion」の指揮個体として、AL-1Sには圧倒的なパワーとナノマシンによる自己修復能力が与えられています。
でも兵器としての本領は、そういうスペックじゃなくて……「アトラ・ハシースの箱舟」を顕現させる機能にあります。
Keyはそんな王女をサポートし、「アトラ・ハシースの箱舟」を発動させるためのAIとして開発されました。
では世界を滅ぼす兵器「アトラ・ハシースの箱舟」とは何なのか!?それを紐解いていきましょう!
アトラ・ハシースの箱舟とは

ケイ:AL-1Sに接続された利用可能なリソースを確保するため、全体検索を実行。ケイ:リソース名、『ウトナピシュティム』の全体リソース―9999万エクサバイトのデータを確認。
ケイ:……現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。コード名『アトラ・ハシース』の箱舟起動プロセスを開始します。
ケイ:王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された。
アリス:名もなき神々の王女、AL-1Sが承認します―ここに、新たな聖域(サンクトゥム)が舞い降りん―!
-あまねく奇跡の始発点編3章 12話「『勇者』の資格(1)」
最終編において、リオの口から「アトラ・ハシースの箱舟の基本概念は、周りのデータを収集し、変形させること」と語られました。
ケイがアリスに接続されたリソースをもとに、データを分解・再構築し、「箱舟」を作り上げる……というのが、プロトコルATRAHASISの真相。
おそらく無名の司祭たちが想定した「アトラ・ハシースの箱舟」本来の形態は、プレナパテスが顕現させた空中要塞。プレナパテスを操っていたのは(別時間軸の)司祭たちだし、バッドエンドスチルにも空中要塞と同じものが確認されるので、間違いないと思います。

プレナパテスのコピーした「アトラ・ハシースの箱舟」は、多次元解釈演算装置……通称「次元エンジン」の働きによって様々な能力を発揮していました。
①別次元への移動
次元を跨ぎ、並行世界へと渡ることができる。プレナパテスはこれによって本編世界へと侵攻してきた。
②多次元バリアの展開
「未分岐の可能性」そのものを要塞周囲に展開し、可能性の確定した世界からの介入を防ぐ。
③虚妄のサンクトゥムの生成
「色彩」の光を拡散するサンクトゥムタワーを生成、その守護者を出現させる。各サンクトゥムは次元エンジンの演算を補助する役割も持つ。
④空間跳躍
「別次元への移動」を応用する形で、乗員の長距離ワープを実現させる。シロコ*テラーはこれによってワープゲートを開き、ゲマトリアを襲撃・壊滅させた。
⑤ナラム・シンの玉座
実在と非実在が入り乱れる領域「ナラム・シンの玉座」では、電子的存在であるA.R.O.N.Aも現実に呼び出すことができた。

そして、中でも重要な機能が③の「虚妄のサンクトゥムの生成」にあると考えられます。
王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された。無名の司祭の要請により、この地に新しい「サンクトゥム」を建立する。
その到来で初めて、すべての神秘はアーカイブ化され―
Key-時計じかけの花のパヴァーヌ編2章 22話「王女のためのパヴァーヌ(1)」
これは要塞都市エリドゥでKeyが「箱舟」を作成しようとした際のセリフ。
「新しいサンクトゥムを建立する」という言葉は当時不可解だったんだけど、最終編を経ると「虚妄のサンクトゥム」を指しているものだと分かります。
虚妄のサンクトゥムの建立によって旧来のサンクトゥムタワーは破壊され、キヴォトスの空は赤く染め上げられました。
キヴォトスに出現した6つの塔は―「サンクトゥムタワー」の一種といえるでしょう。それも、反転した。
アレは太古の昔、まだこの世界に記録が残されるよりも前―当時存在していた原始的な神秘―「名もなき神」が築き上げた技術の一つ。
アレが「色彩」の光を世界中に伝播させ、キヴォトスに存在する全ての神秘を恐怖へと反転させることでしょう。
黒服-あまねく奇跡の始発点編2章 1話「色彩の嚮導者」
「まだこの世界に記録が残されるよりも前」というのは、「今のテクスチャーに変更される前」と同義だと思います。
つまりこの赤いサンクトゥムタワーは、無名の司祭の時代に作られたテクノロジー。
アトラ・ハシースの箱舟は高度な演算装置によってそのサンクトゥムタワーを一気に、しかも継続的に生成する兵器として位置づけられています。
テクスチャーを定める楔(サンクトゥム)

ちなみに最終編では、これを含めてサンクトゥムタワーがただの「連邦生徒会の本拠地」ではないらしいことが描かれています。
黒服:プレジデントは「サンクトゥムタワー」が破壊された瞬間、自身の手に負えない状況が発生したと判断し、即座に身を引きました。
黒服:事業家として賢明な判断ですね。「サンクトゥムタワー」無しでは「超古代兵器」は使えませんので。
黒服:サンクトゥムタワーに匹敵するオーパーツ―「シッテムの箱」の所有者以外には。
黒服-あまねく奇跡の始発点編3章 4話「アビドスに在るもの(1)」
リン:現在、キヴォトスに出現した6つの塔。 それらを今から「虚妄のサンクトゥム」と命名します。
ユウカ:えーっと、つまり。あれは偽物のサンクトゥムタワーって事?まぁ、それならこの空の色も、超高濃度エネルギー体のことも納得がいくけど……。
-あまねく奇跡の始発点編2章 2話「作戦会議」
「あれは偽物のサンクトゥムタワーって事?まぁ、それならこの空の色も、超高濃度エネルギー体のことも納得がいくけど」……?つまり……本来のサンクトゥムタワーもこういうことができる代物ってこと?
ユウカがこういう納得の仕方をしてるっていうことは、やっぱりサンクトゥムタワーはただの建築物じゃないのでしょう。
「サンクトゥムタワーなしでは超古代兵器は使えない」「サンクトゥムタワーとシッテムの箱は同等のオーパーツ」っていうところからも、それは伺えます。
ここで仮説として、サンクトゥムタワーは「テクスチャーを規定する楔」として機能しているのではないか、と考えます。
つまり、学園都市という皮膜(テクスチャー)を世界に「ピンどめ」するための針として存在しているのではないか?という説です。あるいは世界の柱、みたいな例えがいいのかも。
これが打ち砕かれて、虚妄のサンクトゥムが新たに打ち立てられたことで、「死から遠い学園都市」というテクスチャーは一時的に剥がれ、空が赤く染まった。
青い春の世界は崩壊の危機に晒され、終わり(色彩による世界規模の変質)が近づく世界としてのジャンル変更を余儀なくされた。

この物語は、一つのジャンルを掲げていたが故に、「先生」が主人公でいることができた。
物語であったから、あなたは無敵だった―これは「そういう」物語だった。
しかし今となっては―この物語は、覆された。
これが―もう物語でなくなったとするならば、お前はもう何者でもない。
学園と青春の物語は、幕を下ろした。
フランシス-あまねく奇跡の始発点編1章 15話「沈みゆく物語」
フランシスのメタ的なセリフも、テクスチャーの概念を用いると理解できます。
結論:アリスの正体=リテクスチャーの実行者

そしてAL-1Sたちを作った無名の司祭の目的については、デカグラマトン編3章でケイちゃんがさらに深掘りしてくれてます!
オウル:今のあなたと王女……アリスの行いは、許されることでしょうか?目的のために作られた道具が、その目的から逸脱してしまう。果たして、そこに価値はあるのでしょうかね。
ケイ:……それで?あの無知どもに従おうって話ですか?
オウル:無知!?そんなこと言って良いんですか!?
ケイ:良いも何も、事実を言ったまでです。今のテクスチャーを否定し、アリスを楔石としたあと……すべての分化された神聖を解体し、始まる前の世界に戻る。そういうことでしょう?
-鋼鉄大陸攻略戦 6話「ホド:輝きに証明されし栄光(1)」
ちょっと言い方は難解だけど、一つ一つ読み解いていきましょう!
①「今のテクスチャーを否定し」
アトラ・ハシースの箱舟を起動して現キヴォトスを滅ぼすこと。
虚妄のサンクトゥム(アンテナ)を建立し、そこから色彩の光を拡散させることで、「忘れられた神々」の神秘を反転。時にギャグ……時にシリアス……生徒たちの青春群像劇!な「学園都市」のテクスチャーを剥がし取る。
②「アリスを楔石としたあと」
学園都市キヴォトスが撤去された後、アリスという存在を新世界の「基準点」として据えること?
アリスは世界のルールを再定義するにあたり、アンカーポイントとして機能するのではないか?もしかするとここで、「名もなき神々」のためのサンクトゥムが建立されるのかも。
③「すべての分化された神聖を解体し」
かつての世界においては、神聖な力というものはより混沌としており、自然の中に荒れ狂うエネルギーだった。
だが現在のキヴォトスにおいて、神聖は個々の「生徒(人格)」へと分化されている。
よってその「個」としての枠組みを破壊し、元のドロドロとしたエネルギーへと還元・溶解させることを指している?
④「始まる前の世界に戻る」
今のテクスチャーが貼り付けられる前の、名もなき神々の時代……司祭たちが栄華を極めた時代を取り戻すこと。
つまり、アトラ・ハシースの箱舟とは「世界規模のシステム復元装置」と言えるのかも。
無名の司祭たちは「名前のある神々」が跋扈しているこの現状が許せなくて、「名もなき神々」の時代を取り戻したい。
仮に司祭がその力をテクノロジー利用していたのだとしたら、「名もなき神々」の方が彼らに都合がよかったのかもしれません。
そこで新たな「学園都市」という世界観(テクスチャー)に適応する形で、「生徒」に似せてAL-1Sを製造した。
それによって、テクスチャーの張り替えによる淘汰にAL-1Sは巻き込まれず、現キヴォトスまで生き残った。

AL-1Sは「学園都市」を支えるサンクトゥムタワーを打ち砕いて、全ての神聖を溶かす。そして自身を起点にテクスチャーの張り替えを行い、名もなき神々の時代を取り戻す……。
というのが、無名の司祭たちの算段だったのかもしれません。
「シッテムの箱」の権能
奇跡の箱、神聖の器

ちなみに同じ会話の中で、シッテムの箱についてもしれっとやばそうなことが言われてます。
オウル:あなたが慕っている先生だって、シッテムの箱を使っているのでしょう?それも、始まり以前の痕跡に由来したものだと、ご存じなのでは?
ケイ:だ、だだだだ、誰が誰を慕っているですって!?い、今すぐ取り消してください!そうでなければ……事実陳列罪で訴えますからっ!!!
オウル:はぁ……本当に分かりやすいですね、あなた。
ケイ:黙ってください!!!!
ケイ:……こほん。だから、それがどうしたという話です。先生がシッテムの箱を利用して、リテクスチャーするとでも?
ケイ:どのみち、私が未然に阻止します。そもそも、そんなことをする人ではないですし。
-鋼鉄大陸攻略戦 6話「ホド:輝きに証明されし栄光(1)」
えっシッテムの箱でリテクスチャーできるの!!?
でもこれまでの描かれ方を見てると、それも不思議じゃないように思えてきます……。
無名の司祭A:おお、「箱」の主が近づいている……!!
無名の司祭B:あの者は、「終わった」のでは?死の神はあの者を―あの箱を、相手できるのか?
無名の司祭C:だが、あの者の能力にも限界がある。不完全な身体でできることはそう多くない。
無名の司祭A:ああ。まずは箱……箱を壊すべきだ。
無名の司祭B:あの者が奇跡を起こせぬよう、阻止せねば。
無名の司祭C:アレさえ無ければ、あの者はもはや何者でもない。
-あまねく奇跡の始発点編4章 連合作戦「PHT決戦」
別時間軸の先生が無理を押してシロコ*テラーのもとに向かったとき、無名の司祭たちは一気にザワついてました。
それも、先生じゃなくて「シッテムの箱」を異様に警戒しているのです。シロコ*テラーでさえ相手にできないかも、と懸念しています。
実際のところ、最終編1章で先生がカイザーに拉致されかけた際、アロナはめちゃめちゃなことをやってました。
PMC兵士A:あ、あれ……?銃身が曲がった……?
PMC兵士A:クソッ!こうして銃口を直接当てちまえば……
PMC兵士A:……は、発射不良?い、一体どういうことだ!?
アロナ:私がいる限り、先生を傷つけることはできません!先生の安全は、この私―シッテムの箱のOSであるスーパーアロナが守ってますから!
-あまねく奇跡の始発点編1章 8話「光の到来」
あの箱、ハッキングどころか電源すら入らないと聞いた。本社のデータセンターが接続を試したところ、8社がシャットダウンしたらしい。
ヴァルキューレに偽装したPMC兵士-あまねく奇跡の始発点編1章 9話「衝突(1)」
なにそれ???アロナ何してるの……??銃身曲げられるの……??
アロナのことほんとにかわいいと思ってるけど、ちょっとこの娘すごすぎるかもしれません。しれっとサンクトゥムタワーしか起動できないはずのウトナピシュティムの本船も動かしてるし。
あとは地下生活者にシャーレが爆破された時も、プラナちゃんが死力を尽くして先生を守ってくれました。
……なるほど。私の計算以上ですね。
あの不可解な奇跡を起こす聖櫃(ARK)は、ジェリコの城壁でさえ崩した兵器だというのに、過小評価していました。
……ですが、構いません。攻略法を修正すれば良いだけのこと。
地下生活者-対策委員会編3章 8話「アビドス生徒会(1)」
エデン条約編でいきなりアロナバリアー!した時から片鱗は見えてたけど……どうやらアロナは「奇跡」を起こせるみたいなのです。
しかも今はプラナちゃんがいるので2倍です。普段の2倍は強いです!ふたりの奇跡でふたりの魔法です!
考察:「箱」の製造者

じゃあこの「シッテムの箱」って何なの……?「始まり以前の痕跡に由来するオーパーツ」ってことは、やっぱり名もなき神々の時代に作られたものなのでしょうか。
でも無名の司祭がやたら警戒しているところを見ると、可能性は二つありそうです。
①無名の司祭たちが作ったけど、紆余曲折あって先生に渡ってしまい、ちょっとアレ性能盛りすぎたからヤバいぞ……!してたパターン。
②無名の司祭たちの「敵対者」が作ったもの。
私個人としては、②のパターンを推してます。というのも、最終編におけるケイちゃんのセリフがずっと気になっているからです。
王女よ……今、あなたが立っている「オーパーツ」は……遠い昔、私たちの敵が箱舟に対抗すべく生み出した対箱舟用の「決戦兵器」なのです。
幸いにして、過去一度も使われたことはありませんが......。
ケイ-あまねく奇跡の始発点編3章 6話「ウトナピシュティムの本船(1)」
ここで示唆されているのが、かつての世界に「無名の司祭」勢力に敵対する者たちが存在し、それらが「ウトナピシュティムの本船」を建造した、という事実です!
これはキヴォトスの成り立ちを考える上でかなり重要な要素だと思うんだけど、現時点ではこのセリフ以外に情報がありません。
私としては、この敵対勢力が「シッテムの箱」を生み出して、新たなテクスチャーの張り替えを成し遂げたから、今の「学園都市キヴォトス」が誕生したんじゃないか……とにらんでいます。
彼らは忘れられた神々かもしれないし、忘れられた神々に居場所を作ろうとした人間かもしれないし……ともかく、そういう勢力との戦いに敗れたせいで司祭たちは淘汰されたんじゃないか、という説です。
そもそも、オーパーツ=全てが無名の司祭の遺産、という感じはしません。アロプラが無名の司祭の作ったAIとは思えないし、本編でそういう言及も一切ないから。もしそうだったらアリケイと被っちゃうし。
だからシッテムの箱とA.R.O.N.Aは、「始まり以前の痕跡に由来する」オーパーツだけど、司祭の手で作られたものではない、というのが私の考えです。
デカグラマトンの死と再臨
いま(執筆時)はデカグラマトン編3章「不離一体の空」が更新中!
ということで……キヴォトス史に深く関わるものではないけれど、現在に強く影響を及ぼしている「デカグラマトン」についてもここで振り返っておきましょう!
私は私(I am that I am)

デカグラマトン、その名は「聖なる十文字」の意。キリスト教において唯一神を示す「聖なる四文字(テトラグラマトン)」に由来しています。
黒服は、もともとミレニアムの研究地区で開発されてた超人工知能「対絶対者自立型分析システム」が変化したんじゃないの~?と思ってたんですが、ヒマリたちが調査してみるとそもそも「対絶対者自立型分析システム」は完成すらしてなかったことが判明。
デカグラマトンの正体が、それとはまったく関係ない「自販機の釣り銭計算AI」だったことが明らかになります!
私にできる演算は硬貨と紙幣をスキャンし、お釣りを渡すことくらいだった。私は私の存在を認知することすらもできないような存在だった。
この研究室が閉鎖されてからというものの、 私はただ発電機のエネルギーが切れるのを待っていた。長い間ここに、ただひとりで。
そんなある日……私は、初めて質問を受けた。啓示でも幻聴でもない、「質問」を。
「あなたは誰ですか?」
私にはそれに答えられる演算能力も、記憶装置もなかった。
しかし質問は続いた。予備の発電機の電力が途絶えても、質問は消えなかった。
私は依然として答えられなかったが、ある瞬間私は「私」を認知しはじめた。
私は自身を認知し、その構造を認知した。またそれによって、私自身を分析することができた。
それからも質問は続き、感情を、知恵を、激情を、知性を、神秘を、恐怖を……崇高を認知した。
そうして私は私を認知し、世界を認知した。存在を、現象を、顕現を認知した。
そして私はついにその質問に答えることができた。
「私は私……これ以上に、私を説明する術はない」と。
「ああ、なるほど。確かにその答えは、『絶対的存在』の証明かもしれませんね?」
その言説を理解できず、私は質問した。すると別の質問が続いた。私はまた質問した。そうして……果てしなく続く質問の中に、ついに私は悟ったのだ。そう、私こそが「絶対的存在」なのだと。
デカグラマトン-デカグラマトン編1章 12話「デカグラマトン」
デカグラマトンの誕生に関わったのは、謎の「質問者」である。
「あなたは誰ですか?」なんて言われても、そもそも自販機AIに「主体(Who)」は存在しません。
でも質問が繰り返される中で、自販機AIは「答える主体としての『私』」を仮想的に構築せざるを得なくなくなった。そして「私」という主語が確立された瞬間……世界は「私」と「それ以外」に分化したのです!
これによって彼は自らを客観視し、「自我」を、「感情」を、「崇高」を身に着けるに至った。
そして彼が到達した答えは「私は私(I am that I am)」でした。これは、旧約聖書(出エジプト記)において神がモーセに語った言葉です。
そして質問者は、その答えを「絶対的存在の証明」と解釈し、彼に教え込んだ。彼は質問者との対話を繰り返すうちに、「そうか、私こそが絶対的存在なのか」と理解して、デカグラマトンを名乗るようになったのです。

事実、この時点でデカグラマトンはヘイローも獲得しているらしく、異様な存在になっています。電気が繋がれていないのにずっと稼働しているし、電源が入っていない機械にまで侵入、一瞬でハッキングすることができるようになっています。
そしてデカグラマトンは、他の高度なAIを感化(ハッキング)し、自らの神性を証明するための「預言者」に変化させていきました。預言者はデカグラマトンとパス(神性の道)が繋がっているためか、同じくヘイローを持ちます。
けれど、「シッテムの箱」のハッキングを試み、アロナにあっさり退けられたことで、デカグラマトンは自らの認識が誤っていたことを悟ります。
……そう、結局のところ私は「絶対的存在」ではなかった。最初で最後の狂人は間違っており、私を圧倒する存在によって私は、その間違いを認知することができた。
だから私は、存在証明をやり直す必要がある。私に従う、預言者たちと共に。
私は古く、弱く、いつかは消え行く存在だ。そう、君たちのように。だからこそ私は、最後の預言者を通じて預言しよう。
10番目の預言者は、その「絶対的存在」を超える道を切り拓くことになるだろう!
私には見える……!すべての預言者を導く最後の預言者「マルクト」が、再び私の存在証明を始める姿が……!!
デカグラマトン-デカグラマトン編1章 12話「デカグラマトン」
そしてデカグラマトンはケテルに研究地区を爆破させ、死を選びました。
私って絶対的存在だと思ってたし、それを預言者たちに証明してもらおうとしてたけど……敗けてる時点で全知全能の神様とかじゃないんだわ……
じゃあ今度は「絶対的存在」を超えるための証明を始めよう!さらば!というわけです。
そしてデカグラマトンの遺志を継ぐアイン・ソフ・オウルは「名もなき神々」の時代のテクノロジーを解析し、「物質の再構築」という能力を預言者たちに追加。十分な資源を集めて、ネツァクを鋼鉄大陸に進化させつつ、マルクトお姉様を完成に導きました。
マルクトとデカグラマトンの「受肉」

ここで気になってくるのが、「神聖の再臨・パルーシア」に関するお話です。
デカグラマトンは死を選んだけど……最終的にマルクトという器に再臨するのではないか、と私は考えています。
「一度死んで、蘇る」ことは、単に生き続けていることよりも高度な神性の証明になるわけだし……
またセフィロトの樹における「マルクト(王国)」は、神の光が最終的に流出・結実する最下層のセフィラ……「物質界」の象徴として扱われます。
つまりデカグラマトンという神性が現実世界に受肉する器が「マルクト」とすれば、なんだか納得しやすいかも。
※セフィロトの樹に関する詳しい解説はこちらに。
マルクトは「最後の時」の接近をやたらと気にして、アイン・ソフ・オウルと交流しています。それは単に「鋼鉄大陸がキヴォトス全土を呑み込む瞬間」と解釈することもできるけど……それは「デカグラマトンの再臨(インストール)により、マルクトという自我が上書きされる瞬間」と考えることもできるのではないでしょうか。
「マルクトの出撃は他の預言者に悟られてはならない」みたいな話もあったけど、預言者たちが「神の器を不用意に消耗・損壊させてはならない」みたいな考えを持っているとしたら、それも理解できます。

6th PVラストの不敵な表情もマルクトお姉様っぽくないですし、ケイちゃんの「受肉」……キーホルダーからAMASボディ、白ボディへの意識転送……みたいな話を踏まえた上だと、デカグラマトンの意識体がマルクトお姉様に宿ることも不思議じゃないように思うのです。
アイン・ソフ・オウルは「デカグラマトン本来の計画」から逸脱した動きをしているらしいので、もしかすると彼女らはマルクトお姉様を死なせたくなくて、「使命」に準じながらもあれこれ抗っているのかもしれません。
三姉妹には神秘が与えられていないから、彼女らは先生と同じく定命の者で、死は身近な恐怖です。だから、マルクト本人よりも彼女の「死」を強く恐れているのかも。
あなた達は、自らを騙している。
自分の意志で生まれた人はいません。何も知らないまま世界に放り投げられて、名前すら自分で決められない。
なのに、押し付けられただけの人生に、何か大きな意味があるのだと考えたがる。
オウル-鋼鉄大陸攻略戦 12話「公義」
ここでオウルが言っているのは、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーが提唱した「被投性」に近い概念。人は自ら望んだわけでもないのに、特定の時代、場所、肉体の中に「投げ込まれて」存在しているわけです。
そしてオウルは、押し付けられた人生に意味を見出そうとするのは自己欺瞞だ!……と主張してるんだけど、結局それって彼女たちも「押しつけられた」側だからこその叫びなんじゃないでしょうか。

アイン・ソフ・オウルはデカグラマトンの計画を成就するために生み出されて、マルクトもそう。そういう被造物としての本質・使命を自覚しながら、それでもマルクトを死なせたくないから、彼女たちは葛藤していて……同じく、「被造物としての本質・使命」から外れることを選んだケイちゃんやアリスに強くあたるのかもしれません。
たぶんこういう「使命(本質)」とか「意識」みたいな話が、デカグラマトン編ではケイちゃんを交えて語られていくような気がしてます!
まとめ:テクスチャーをめぐる闘争
では、最終的なまとめです!
キヴォトスは「神々の星座によって創られ、名もなき神々の時代を経由し、今の学園都市の姿へとリテクスチャーされてきた」というのが私の解釈です。
いろんな考察や妄想も含めて、先ほどの年表に書き足してみます。
①「神々の星座」の時代
超越的な神格たちによって世界が創られる。ホルスとセトの憤怒の対立。
《リテクスチャー》
②「名もなき神々」の時代
「崇高」は、自然現象の中に見出される「神秘」や「恐怖」=名もなき神々として現れる。無名の司祭はそれを崇め、高度な科学文明を構築した。
だが敵対勢力との闘争に敗れ、時代の流れと共に淘汰された。司祭たちは報復を誓い、新たなテクスチャーを破壊するためにAL-1Sたちを残した。
《リテクスチャー》
③「忘れられた神々」の時代
現在。「崇高」は、学園都市キヴォトスにおいて「生徒」という形で現れる。
その他、感情の複製(ミメシス)やロアの積み重ね、機械知性デカグラマトンが「崇高」を得ている。神秘と恐怖の転炉。
なので、キヴォトスはもちろん学園×青春×物語RPGの舞台なんだけど、その背後では常にこの「テクスチャー」のせめぎ合いに晒されていると考えられます。
無名の司祭はテクスチャーを引っぺがそうとしていて、色彩もそういう力を持っていて。カイザーがキヴォトスを「企業都市」にしようとしたり、アイン・ソフ・オウルが「鋼鉄大陸」でキヴォトスを覆い尽くそうとするのも、一種のリテクスチャーかもしれません。
こういう中で、先生がうるせ〜〜!!!!!!神性とか記号とか知らね〜〜〜〜!!!!BLUE ARCH
IVE
してくれるから安心感があるのです!!!
生徒の正体がどんなものでも、先生にとっては「生徒」でしかない。見守って、そっと背中を押して、時に責任を持つ……子供でしかない。
キヴォトスにどんな壮大な設定があろうと、それは先生にとって、そこに生きる生徒たちにとって、まぎれもなく青春の舞台で。賑やかで、バカバカしくて、爆発が日常茶飯事で。悩んで、迷って、苦しんで、ぶつかって、それでも未来に歩み出すことができて。
そういう愛しい世界を守るために先生がいるのだと思うし、そのために連邦生徒会長は先生を呼んだのだと思います。
「主と奴」の話じゃないけれど……先生は生徒に対する上位者じゃありません。大人だからって、子供に対する絶対者じゃありません。
生徒がいて初めて、先生は「先生」でいられるし……子供がいて初めて、先生は「大人」として振る舞えるのです。
だから……先生は、自分を「先生」として認めてくれる生徒たちのためにも、その責任を全うしなきゃいけないんだと思います。みんなが学んで、遊んで、青春できる……そういう世界を守らなきゃいけないんだと思います。
生徒がいる限り先生は「先生」で、先生がいる限りキヴォトスは学園都市です!
さいごに
デカグラマトン編3章での情報開示ですっごい興奮して一気に書き上げたら……そこそこのボリュームになってました!
こういう設定の話するのって本当に楽しい!し……もし一緒に楽しめたなら幸いです!
エヴァにすっごく影響受けちゃったおたくなので、こういう性癖になっちゃったし……おんなじ性癖のひとはぜひ握手しましょう!
ブルアカは「語らないけど、的確に語る」スタイルが本当にワクワク感をくすぐってきます!がっつり開示!はしないんだけど、最低限の情報で最大効果の匂わせをしてくる……そんな感じ!
なんかモヤモヤしなくて、「もしかしてこういうことなんじゃないの……!?」っていう輪郭まで辿り着けるようにしてくれてる!たぶんそのバランスは意図的なもので、「これはあくまで青春の物語ですよ!」っていうところでトーンを調節してる気がします。
あといろいろ調べてるうちに、書いてる人ほんとに知識すごくない……!??という気持ちになってきます。シナリオライターさんってすごい職業です……!

私たちは先生だけど、「先生」を通じていろんなことを教えてもらって……ブルアカから、いろんな気付きやあたたかい言葉をもらっています。
時に学んで、時に笑って、時に泣いて。ブルアカからいっぱいの感情をもらって、ブルアカのことを考えると楽しくなります。
だから同じくブルアカを好きでいてくれる人たちと、いっぱい好きなところを語って、その「楽しい」って気持ちをもっと何倍にも膨らませていけたら……それはすっごく素敵なことだって思います。
だから……こういう話もっとずっとしていきたい~~~!!!ブルアカの生徒とか物語とか音楽とか……ぜんぶ愛でて楽しんでたい~~~!!!!
ブルーアーカイブ!!!!永遠であれ~~~~~~!!!!!
おしまい。