「巡狩」の嵐(らん)
「豊穣」の薬師を敵視し、其が生み出した異形を狩り続ける星神。目にも止まらぬ速さで動き、光の矢で全てを貫く。
一説には豊穣戦争で散った英雄「帝弓」が昇格した存在とも語られており、仙舟同盟ではしばしば「帝弓の司命」と呼ばれる。
そんな嵐を崇める「仙舟同盟」の設定・キャラクターをざっくり解説する記事!
まずは用語のおさらいから!
仙舟同盟
仙舟人(天人)、狐族、持明族という3つの長命種が住まうスペースシップ群。
その起源は、不老不死の秘薬を求め旅立った9隻の宇宙船にある。
うち3隻は既に無いが、長きに渡る航行の末に羅浮が「豊穣」の薬師との接触に成功。建木(けんぼく)を与えられ、仙舟人に不老長生をもたらした。
仙舟人はこれに歓喜したが、待ち受けていたのは人口爆発による資源の欠乏、そして建木を狙う「豊穣の民」との過酷な戦いだった。
更には長生のために肉体や精神が変質してしまう病「魔陰(まおん)の身」が現れ始めたことで、薬師信仰は崩壊。仙舟同盟は豊穣との敵対を決意し、薬師の造物を狩る「嵐」を敬うようになった。
★仙舟の3種族
仙舟人
薬師の創りし建木から不老長生を得た種族。
天寿は存在しないが、「魔陰の身」に陥れば十王司によって処分される。
魔陰の身とは、主に「長く生きすぎることで記憶が摩耗し、負の感情ばかりが蓄積することで最終的に狂乱状態に陥る」症状を指す。その他、細胞の再生機能が暴走し、異形化してしまう症状などもこれに該当する。
魔陰の身に堕ちた者は人としての理性を消失し、他者への攻撃性を発揮することから、これが実質的な仙舟人の「寿命」とされている(およそ800~1000歳程度)。
狐族(こぞく)
狐のような耳や尾を持つ種族。豊穣の産物たる「赤泉」の水を飲み不老長生を得た。寿命は250歳~450歳。
豊穣の民から侵略を受けていたところ、仙舟に救われて同盟に合流した。
持明族(じみょうぞく)
今は亡き星神・「不朽」の龍より力を与えられた種族。龍のような角と尾を持つ。
500歳程度で寿命を迎えると「脱鱗(だつりん)」を起こし、再び卵から転生する。転生体に前世の記憶は引き継がれない。
しかし繁殖能力を持たず、脱鱗前に命を落としてしまう場合もあるため、その数は減少の一途にある。
持明族の長は「龍尊(りゅうそん)」と呼ばれ、多くの秘術を継承している。
★仙舟六司
・地衡司(ちこうし)
行政を担う機関。人口調査や暦の制作など、細々したことを行っている。
・天舶司(てんはくし)
貿易を担う機関。小型飛行船「星槎(せいさ)」の交通整備も行っている。
・工造司(こうぞうし)
工業を担う機関。星槎の開発や修理、武器の鍛造などがその役目。
・太卜司(たいぼくし)
占いを担う機関。晶石コンピューター「玉兆(ぎょくちょう)」を用いた演算により、未来を正確に言い当てる。
・丹鼎司(たんていし)
医療を担う機関。人々を癒すだけでなく、医薬品の研究開発も行っている。
・雲騎軍(うんきぐん)
仙舟の軍隊。6つの船それぞれに将軍が存在し、その上に元帥が立っている。
彼ら「帝弓七天将」は巡狩の使令とも呼べる存在で、嵐に与えられた威霊を操ることができる。
ex.
・十王司(じゅうおうし)
罪人の確保や妖魔退治を行う独立機関。
また、魔陰の身の兆候が確認されたものを処分する役割も持つ。
★仙舟の敵
仙舟同盟の敵は、薬師の恩恵を受けた不老長生の種族たちである。彼らは薬師の造物である建木を狙い、何度も侵略戦争を仕掛けてきている。
仙舟同盟は彼らを「豊穣の忌み物」と、また彼らとの間に起こった大戦を「豊穣戦争」と呼ぶ。
・歩離人(ほりじん):オオカミの特徴を持つ凶暴な種族。
・造翼者(ぞうよくしゃ):翼を持つ種族。星間海賊になっている。
・歳陽(さいよう):知的種族に寄生し、その感情を喰らうエネルギー生命体。
仙舟・羅浮(らふ)
薬師と接触し、建木を与えられた船。外部との交流が盛ん。
トップは神策将軍・景元。龍尊「飲月君」は建木を見守る責務を持つ。
景元(けいげん)
羅浮の雲騎将軍。穏やかだが聡明な計略家。
戦にあたっては嵐より賜った威霊「神宵雷府総司駆雷掣電追魔払穢天君(しんしょうらいふそうしくらいせいでんついまふつあいてんくん)」_略して“神君(しんくん)”を召喚する。
1000年以上の時を生きているが、心に折り合いをつける方法を弁えているのか魔陰の身の兆候はまったく見られない。
・過去
雲騎軍に入った景元はめきめきとその頭角を現し、当時の「剣首」であった女性・鏡流に師事することとなった。
そして彼は鏡流、丹楓、応星、白珠と並んで「雲上の五騎士」と呼ばれ、羅浮を襲う多くの敵を退けてきた。
しかし豊穣の使令・倏忽との戦いで白珠は落命。彼女を蘇らせるため丹楓、応星は禁忌の術に手を出し、結果として厄龍という存在を生み出してしまった。
鏡流は厄龍を討つも心を壊して「魔陰の身」へ堕ち、消息不明に。不死の呪いを受けた応星も自死を求めて失踪し、丹楓には強制脱鱗の刑が下された。
羅浮に残った騎士は、景元たった一人となってしまったのだ。
彦卿(げんきょう)
景元の護衛であり、その弟子。幼くしてその才覚を発揮し、未成年ながら雲騎軍に迎えられた。
その目標は、数百年にわたって空位となっている羅浮「剣首」の座を手にすること。
多少大人びてはいるものの、精神的にはまだまだ未熟。工造司の宝剣を実戦用・保存用とコレクションしては、毎月末に金欠となっている様子。
・現代
剣技に対しそれなりの自信を持っていた彦卿だが、ひょんなことから鏡流、丹恒、刃らと戦うこととなり、自らの甘さを痛感する。
しかし呼雷が脱獄した際にはその経験を活かし、鏡流の剣技を再現することで彼に決定打を与えてみせた。
符玄(ふげん)
太卜司のリーダー(=太卜)。自信に溢れたまっすぐな知者。
ヌースに与えられた「第三の目」を額に埋め込んでおり、それと巨大演算装置「窮観の陣」をもって仙舟の行く末を占う。
羅浮将軍の座を虎視眈々と狙っているが、今のところ景元がその座を譲る様子はない。
・過去
符玄は「玉殿」の観星士世家である符氏一族に生まれた。
彼女は神人と呼ばれる太卜に師事し、太卜司で多くの議論を繰り広げた。その時間は喜びに満ちており、彼女は師のすべてを尊敬していたが、しかし両者には決定的な相違があった。
彼は仙舟一の陣法「十方光映法界」によって導き出される運命を信じ、それに従って生きていたのだ。彼は符玄という少女がいつか自身を殺めると確信していた。そして、その運命を受け入れるべく彼女を弟子にしたのだ。
陣法が示した未来を必ず実現すると信じ込み、選択を捨て、陣法の奴隷となる。それは符玄にとって到底認めがたいものであった。
一族の制止を振り切り、玉殿から逃げ出した符玄は羅浮の太卜司に渡った。歩離人が恐るべき活性化惑星を呼び寄せたとき、彼女は景元に謁見し「嵐」の召喚を提案した。
はたしてその案は採用され、第三次豊穣戦争は嵐の光矢によって決着することとなった。嵐への信号を放つことができたのは、玉殿の太卜……すなわちかつての彼女の師のみ。
彼が光矢に巻き込まれて命を落としたとき、符玄は彼の考えをようやく理解したのだった。
青雀(せいじゃく)
太卜司の卜者。仕事をサボることを絶対にサボらない。
「帝垣美玉」という麻雀のような古代遊戯を現代に復活させた張本人で、職務中でも隙あらば友人たちと牌を打っている。
・過去
学生時代の青雀は、あらゆるテストでぴったり「60点」を取っていた。初めは彼女を凡庸な生徒として捉えていた教員たちは、やがてその恐るべき才能に気付いた。
だがどれだけ期待されようとも、青雀は「ほどほどで楽な暮らし」がしたいだけなのだ。そうした振る舞いは、太卜司に就職してからも変わらなかった。
彼女は常に最底辺の卜者であり続け、仕事が回されることを回避してきた。自分から仕事は探さず、一人で頑張らず、手柄は立てても同僚に譲る。これがぬくもりある今の環境を保つための秘訣なのだ。
御空(ぎょくう)
天舶司のリーダー。温和な狐族の女性。
かつては星槎の優秀な飛行士として豊穣戦争に参加していたが、戦友・采翼を失ってから飛ぶことを辞め、公務に集中するようになった。
また母としての一面も持つが、娘の晴霓は采翼より託された子である。
停雲(ていうん)
天舶司商団「鳴火」の代表を務める狐族の女性。
口達者で、争いよりも対話による物事の解決を好む。天外行商人の多くは護身用の武器を携帯しているが、彼女は自らの信念に則り、あえて「扇子」を持ち歩いている。
・現代
魔陰の身に襲われていたところを開拓者たちに助けられ、以降羅浮の案内役を担う。
が、最終的にはその正体が壊滅の使令・幻朧(げんろう)であることが明らかになる。幻朧は本物の停雲に成り代わり、薬王秘伝に星核をもたらすことで仙舟同盟の内部衝突を引き起こそうとしていた。
本物の行方については長らく掴めないままだったが、「天才クラブ」のルアン・メェイにより救助されていたことが明らかとなる。
白露(びゃくろ)
丹鼎司の幼き名医であり、持明族の現龍尊。
……なのだが、龍尊の継承が不完全であったためか治療に関する力しか行使できない(実は雷や水を操る力も発現しているが、「飲月の乱」の再来を危惧する者たちの手によって特殊な鎖を装着させられている)。
その医学知識に反して精神面は無邪気な子供そのもの。多くの時間を医館で過ごさねばならない今の生活には飽き飽きしており、これまでに何度も脱走を繰り返している。
・過去?
その正体は、かつての戦いで散った「雲上の五騎士」白珠(はくじゅ)の転生体と目される。
当時の龍尊・丹楓は、豊穣の使令「倏忽」の遺体と龍尊の継承に用いる秘術「龍化妙法」を用いて白珠を蘇らせようとした。
結果として白珠の自我を半端に残した怪物「厄龍」が生まれ、鏡流の手で討伐されることになったのだが、そこでは同時に白露も誕生していた。
白珠の蘇生は失敗したかに見えたが、ある意味で成功していたのだ。白露に白珠としての記憶は一切ないが、かつての五騎士たちは未だに彼女を気にかけている。
そして丹楓が偶然に果たした「他種族の持明族化」という事象は、繁殖能力を持たない持明族に新たな可能性をもたらした。
霊砂(れいさ)
新たに丹鼎司のトップに就任した持明族の女性。
お香を用いた治療を得意とし、その振る舞いは理知的で隙がない。良いにおいがする。
・過去
かつての名は丹朱という。彼女は雲華という師のもとで医術を学んだが、あるとき雲華は仙舟・朱明に追放されることとなった。丹朱はこれを不当なものとして憤り、雲華とともに朱明に渡った。
彼女はそこで針灸やお香、炎治療などを学び、それらを羅浮の丹術と融合させることで著名な医士へと成長した。その過程で様々な「におい」を嗅ぎ分けられるようになった丹朱は、香を操り人を病ませる悪臭を取り除こうと考えた。
そして彼女は、とある妙薬になぞらえて自らの名を「霊砂」と改めたのだ。
・現代
羅浮丹鼎司にはテロ組織「薬王秘伝」の根が張り巡らされており、彼らが排除されたのちも、その体制的な腐敗は変わらぬままだった。その鼎司に任命された彼女の役目は、そうした組織を健全化し、立て直すことにある。
かくして羅浮に戻った霊砂は、かつて雲華が「丹恒に前世の記憶を蘇らせる術」を施していたこと、その罪によって追放処分を受けていたことを知るのだった。
雪衣(せつい)
十王司の判官(役人)。疲れを知らぬ機械の体で罪人を追い、捕らえる。
豊穣の使令・倏忽との戦いで命を落としたが、十王司によって機巧の身体を与えられた。そこで交わされた取引は定かではないが、重罪人を1人捕まえるたびに半日の自由が与えられる様子。
身体的な構造の変化から、喜怒哀楽の感情がほとんど希薄化している。
寒鴉(かんあ)
十王司の判官で、雪衣の妹。夢を通じて罪人の因果を読み取り、判決を下す役目を持つ。
「魔陰の身」の情報を浴び続けているため、世の中の万事に対して何も感じなくなっている。唯一、雪衣に関することだけが彼女の心を揺さぶる。
フォフォ
十王司の見習い判官。尻尾にエネルギー生命体・歳陽を封印され、妖魔を引き寄せる体質になってしまった狐族の少女。
怖がりで臆病だが、「シッポ」とともに怪異退治の任務に臨んでいる。
・過去
かつての羅浮将軍に討たれた大歳陽「燎原(りょうげん)」は、いくつかの断片に分けられて工造司の炉に封印された。幼いフォフォが出会ったのは、その封印を逃れた分霊「燎原の孤高」であった。
当時巡回任務にあたっていた寒鴉は、歳陽に吞み込まれそうになっているフォフォを発見した。歳陽は強力で、無理に引き離せば少女の命そのものに関わる……即座に状況を判断した寒鴉は、護符によってそれを彼女の尻尾に封印した。
以来、フォフォの尻尾は緑色の炎のようになり、それによって多くの妖魔を引き寄せる体質となってしまった。
フォフォは“シッポ”からの解放を求め、シッポも彼女の捕食を諦めていなかったが、長い時間を共に過ごすうち、両者の間には奇妙な絆が芽生えていた。
・現代
開拓者、桂乃芬、李素裳とともに「怪異退治隊」を結成。羅浮で起こる歳陽の憑依事件を次々に解決し、燎原の復活を目論む歳陽・浮煙の野望を阻止した。
桂乃芬(けいないふん)
仙舟に滞在している大道芸人の少女。朗らかな気質で周りを笑顔にする。
本名はグィネグィア。桂乃芬は羅浮で知り合った友人・素裳に付けてもらった名で、「素晴らしい木の香り」を意味している。
・過去
とある星の王家に生まれたグィネグィアは、しかし反物質レギオンの侵略によって故郷と両親を失った。
長兄は多くの弟妹を連れて各地を漂泊し、やがてカンパニーの廃れた鉱星「ホンボルト-σ」に行き着いた。しかしそこでの生活も容易ではなく、やがて家族を養っていくために、グィネグィアの兄たちは星間海賊に身を堕とすこととなった。
そのような生活がいつまでも続くはずもなく、グィネグィアは兄妹たちと共にカンパニーに捕らえられ、雲騎軍に引き渡された。しかし将軍は彼らの背景を知り、仙舟に迎え入れるばかりか満足な教育まで受けられるよう計らった。
そこで雑技を学んだグィネグィアは、大道芸人としての才能を開花させ、多くに愛される人物となったのだ。
李素裳(り・すしょう)
雲騎軍の新人。あほあほだが善良で、日々人助けに励んでいる。
仙舟・曜青で生まれ、招集に応じて大剣「軒轅」とともに羅浮へやって来た。
桂乃芬とは互いに「けいちゃん」「すーちゃん」と呼び合う仲で、彼女の大道芸や配信活動にも付き合ったりしている。
鏡流(けいりゅう)
「雲上の五騎士」に数えられた、かつての羅浮の剣首。
しかし魔陰の身に堕ち多くの雲騎軍兵を手にかけたことから、その名は記録上より抹消されている。
・過去
彼女が生まれた仙舟・蒼城は、豊穣の手で生み出された妖星・羅睺に呑み込まれ消滅した。からがら生き残った鏡流は、とある女性に拾われて剣術を叩き込まれた。
雲騎軍にて彼女は多くの敵を斬り、いつしかその腕は羅浮随一のものとなっていた。
彼女は景元を弟子に取り、「雲上の五騎士」としてもその名を馳せた……が、飲月の乱が全てを変えた。
白珠の意識を僅かに残した厄龍を斬り伏せたとき、彼女の心は決壊し、「魔陰の身」の症状が現れた。狂気に呑まれた鏡流は無数の雲騎軍兵を殺害し、景元との死闘の末にようやく自我を取り戻した。
鏡流は羅浮を離れ、辛うじてその人間性を保ちながら放浪した。そして豊穣を倒す手段を手に、今再び羅浮を訪れたのである。
丹楓(たんふう)
先代の持明族龍尊。「飲月君(いんげつくん)」の称号を持っていた。
雲上の五騎士に数えられた英雄だが、のちに「飲月の乱」を起こし罪人となる。
厄龍を生み出し多くの被害をもたらした丹楓には、しかし様々な外部の働きがあり、処刑ではなく「強制脱鱗(転生)」という罰が与えられることととなった。
かくして丹楓という個体は消え、丹恒という新たな個体が生まれるに至った。
しかし龍尊の補佐役である龍師たちは脱鱗の術に細工を施し、丹恒に龍尊の力が残るようにした。そこには既に「飲月君」の称号を持たぬ彼を手中に収め、その力を意のままにし龍師の権威を高める思惑があった。
仙舟・曜青(ようせい)
軍事力の高さで知られる船。狐族を主とする精鋭集団「青丘軍(せいきゅうぐん)」を抱える。
トップは天撃将軍・飛霄。龍尊「天風君」は胎動する月を見守る責務を持つ。
飛霄(ひしょう)
曜青の雲騎将軍。明朗快活な狐族の女性。
嵐の光矢によって多くの仲間を失っており、「流れ星(光矢)が落ちるのを二度と見なくて済むようにする」ため豊穣の信徒を狩り続けている。
・過去
彼女_薩蘭(さらん)は、歩離人によって狐族が虐げられる地に生まれた。
狐族は侵略戦争のための盾として使い捨てられ、その命を落としていく……。自由を求め、友人とともに脱出を図った薩蘭は、嵐の光矢が落ちるさまを目の当たりにした。
友人と多くの同胞を失いながら生き残ってしまった彼女は、当時の曜青将軍・月御(げつぎょ)により拾われた。彼女は飛霄と名を変え、雲騎軍でその力を磨いていった。
そして第三次豊穣戦争の際。飛霄は苛烈な戦いの中で「月狂い」を発症する。それは肉体を獣化変質させる歩離人の能力であり、歩離人と狐族の混血である彼女にもその力が秘められていた。
しかし狐族には歩離人のような再生能力がなく、肉体の急速な変質は彼女に大きなダメージをもたらした。月狂いの症状は次第に進行し、最終的に彼女は完全な獣と成り果ててしまうだろう。
月御が光矢に消えたのち、将軍の座を継いだ飛霄は、その命尽きるまで豊穣の忌み物と戦うつもりでいた。
・現代
演武典礼を迎える羅浮に訪れ、歩離人の戦首・呼雷(ふーれい)の脱獄事件に鉢合わせる。
呼雷は歩離人が呪術じみた力で生み出した心臓「紅月」を継承しており、その血によって狐族を獣化させることができた。最終的に敗北を悟った彼は、自らの心臓を摘出し、その輝きによって羅浮全土の狐族を狂化させようとする。
これを阻止するため、飛霄は嵐に与えられた威霊をもって紅月を呑み込む。呼雷の目的は、強き彼女を新たな歩離人の戦首とすることにあった。
しかし飛霄は彼の誘いを跳ね除け、その残留思念を撃破。紅月の狂気から脱し、皆のもとに帰還を果たすのだった。
椒丘(しょうきゅう)
飛霄の専属医師を務める狐族の男性。
医食同源の丹方を研究しており、料理を通じて治療を促す。
・過去
丹鼎司の名家に生まれた椒丘は、しかし丹鼎司ではなく野戦病院で働くことを選んだ。
そして彼は雲騎軍の信用を勝ち取り、治療を通じて多くの兵士と関わった。しかし彼らは傷を癒すと、再び戦場へ向かって命を落としてしまう。ならば、医者が存在する意義とは何なのか?
虚無感に心を砕かれた椒丘は、一度医業を離れた。だが飛霄が将軍の座に就いたとき、彼はその「月狂い」を治療するため表舞台に舞い戻ったのだ。
・現代
脱獄した呼雷に捕まるも、飛霄を支えるべく奮闘。最終的には呼雷にその血を啜られてしまうが、予め毒物を服用していたため彼にダメージを与えることができた。失明と引き換えになんとか生還を果たす。
モゼ
飛霄の影護衛で、短命種(非仙舟人)の青年。
あらゆる暗殺術に精通しており、寡黙に偵察・諜報活動などを行う。
・過去
孤児であった彼は薬王秘伝の残党に拾われ、幼い頃よりその洗脳教育を受けてきた。
組織が飛霄の手で壊滅させられたのち、モゼは彼女への復讐を果たそうとし、彼女もまたその機会を与えた。飛霄により、モゼは新たな生活と教育をもたらされたのだ。
影護衛の任に就いてからもモゼは幾度となく飛霄の暗殺を図ったが、その全てが失敗に終わった。やがて彼はかつての「家族」の正体を認識したが、それでも未だ飛霄の側に立っている。
仙舟・朱明(しゅめい)
精巧な鍛造技術で知られる船。封印されし歳陽の祖「火皇」から無限のエネルギーを抽出し、その工業を発展させてきた。
トップは燭淵将軍・懐炎。龍尊「炎庭君」は火皇を見守る責務を持つ。
懐炎(かいえん)
朱明の雲騎将軍。工造司のマスターたる百冶(ひゃくや)の称号を持ち、その手で多くの職人を育ててきた。
不老の仙舟人でありながら、なぜか老人の外見をしている。
雲璃(うんり)
懐炎の孫娘であり、彼の弟子。幼い性格だが剣の腕は本物。
剣の声を聞くことができ、「持ち主に相応しくない」と判断した相手から一方的にそれを回収している。
・過去
父・含光が生み出した剣には歳陽が鋳込まれており、その使い手を狂わせる作用があった。魔剣の持ち主によって父が殺された後、雲璃は懐炎に引き取られ、その技術の多くを継承した。
そして雲璃は、父が生み出した全ての魔剣をその手で狩り、溶かすことを決意したのだ。
仙舟・玉殿(ぎょくでん)
卜者が多く住まう舟。星を観察し、同盟のために新しい陣法や方略を考案している。
トップは戎韜将軍・爻光(こうこう)。龍尊「崑岡君」は息壌の胎石を見守る責務を持つ。
仙舟・方壺(ほうこ)
持明族が統治する船。豊穣戦争の際に光矢の被害を受けたが、現在は復興の道を辿っている。
トップは伏波将軍「玄全」。龍尊「冱淵君」は方寸煙海を見守る責務を持つ。
仙舟・虚陵(きょりょう)
未だ多くが謎に包まれた船。
トップは塵冥将軍「有無」だが、雲騎元帥・華も滞在している様子。
豊穣がもたらした造物(寿禍の跡)や、それを見守る龍尊の存在は確認されていない。